【危険なビーナス】感想と東野圭吾の原作を復習。小説版のネタバレあり

2023年05月30日

【注意】この記事には原作の結末に関するネタバレが含まれます。

東野圭吾原作小説『危険なビーナス』を読んだ感想です。

獣医の手島伯朗が謎の美女・矢神楓と出会い、失踪中の弟・明人の行方を追っていくミステリー小説。500ページの長編でしたが、結末が気になりすぎてイッキに読了でした♪

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感想…の前に『危険なビーナス』ストーリーを復習

感想の前に、『危険なビーナス』原作のストーリーを復習しときしょー(ネタバレあり)

獣医・手島伯朗の元に謎の美女・矢神楓が現れ『夫の明人くんを探してほしい』と依頼。明人は伯朗の9歳年下の異父弟で、仕事で滞在していたシアトルから6日前に帰国。その二日後、とつぜん行方不明になったという。

伯朗は遺産相続がらみで明人が事件に巻き込まれたと推測。明人の父・矢神康治は現在 重い病で死の淵におり、明人はまもなく莫大な遺産を受け取る予定だったのだ。伯朗と楓は矢神家の親族たちが怪しいと睨み、親族会に出席したりして情報収集にあたった。

伯朗は明人捜索のなか、弟の嫁である楓にしだいに心惹かれていってしまう。

伯朗はある親族から、33年前に亡くなった画家の父・一清と、明人の父・矢神康治(栗原英雄)の意外な接点を知る。康治はかつて脳の研究に心血を注いでおり、一清は彼の患者だったのだ。康治が施した『人体実験』により、脳腫瘍を患っていた一清は一時的に回復。その副作用で天才に目覚めたという。

天才に目覚めた一清は、死の間際に衝撃の絵を残していた…。

明人の行方が一向に分からない中、伯朗は16年前に不審死をとげた母・禎子が明人に残したという『貴重なもの』の存在を知る。これが康治の人体実験の資料だと考え、禎子の実家を探索。ここで叔父の憲三と遭遇し、禎子を殺害した犯人が彼だったと知った。

憲三の目的は天才に目覚めた一清が残した『寛恕の網(かんじょのあみ)』という絵。この絵には素数の謎を解明できる”ウラムの螺旋”という図が潜んでおり、数学者の憲三は生涯をかけてこの絵を行方を追っていたのだ。16年前、禎子は実家に忍び込んで絵を捜索していた憲三と鉢合わせ、殺害されてしまったのだ。

物語の終盤、憲三は禎子殺害を伯朗に謝罪し、死をもって償おうとする。実家に灯油をまいて火をつけると、伯朗は崩れた壁の中に『寛恕の網』を発見。絵に気を取られ逃げ遅れてしまった伯朗だったが、突如現れた弟の明人に救われた。

明人からすべてを聞かされた伯朗。明人は失踪したのではなく、警察の保護下にいたのだ。憲三は、遺産分配で『寛恕の網』が明人に渡るのを阻止するため誘拐計画を企てており、これを察知した警察が明人をかくまっていたのだ。

そして…楓の正体はまさかの潜入捜査官だった!伯朗に近づいた目的は誘拐計画を企てた犯人を特定するため。もちろん明人の嫁というのも大ウソ!だったのだ…!

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危険なビーナスの感想

危険なビーナスの感想

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『危険なビーナス』原作小説の感想です。

読み始めは『遺産相続をめぐる骨肉のドロ沼バトル系』とか勝手に妄想してましたが、全然違ってました^^;

物語の軸となっていたのはサヴァン症候群を起因とした『脳の人体実験』。さらには『フラクタル図形』『ウラムの螺旋』『リーマン予想』など難解な理系ワードが物語に絡み、『素数の謎を解く絵』という神の領域のごときアートも登場。

数学、医療、芸術という異なる分野を違和感なく融合させた同作は、『ガリレオ』で知られるサイエンスミステリーの大御所作家・東野圭吾の粋を集めたオールインワンな作品という印象です。

で、これらミステリー要素とともに注目だったのが、主人公・伯朗(妻夫木聡)と楓の禁断の恋。ぼく的にはこっちのほうがドキドキ…!

重いテーマのこの作品が意外とマイルドに読めた理由は、”ちょっと残念なキャラ”である伯朗と、小悪魔的キャラの楓との恋の予感があったから。超えてはならない一線を必至で踏ん張る伯朗が、じれったいやら女々しいやらで、明人捜索とは別ルートの楽しみを見出してくれました。

この小説はクライマックスですべての謎が一気にネタバラシされる展開になっており、ラストで明人(染谷将太)の行方、楓(吉高由里子)の正体などが怒涛のごとく判明。驚きと笑いの大団円となっていました。

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主人公・手島伯朗の感想

主人公・手島伯朗についての感想です。複雑なルーツと悲しい過去を背負い、”女性に惚れやすい”というウィークポイントをもつ獣医さんです。

この伯朗お義兄さま、外面はマジメ&威厳ありげに振る舞っていますが、内面はなかなかのしょーもないヤツ。全編とおしてオンナの事しか考えておらずツッコミどころ満載なんですw

弟の嫁である楓を『ふとももが~ボデーラインが~』とエ●目線でガン見したり、動物病院の女性客を恋人候補的に査定したり、助手の看護師(陰山元美)を美人って理由だけで雇った過去が判明したり、とにかく脳内マッチングアプリがずーっと起動中な人^^;

危険なのはビーナスではなくこの人なんです。

…きっと伯朗は早くに両親を無くした過去から目を背けるために、無意識の内にキレーなオネーチャンばかりに目がいく体質になってしまったのでしょう(精一杯の擁護w)。

もしくはつらい過去の影響で『はやく家庭を持ちたい』という願望に突き動かされていたのかも。

そんなわけで、物語の後半以降、僕は明人の行方よりも伯朗の恋の行方のほうにはるかに興味しんしんとなり、『どうした伯朗、はやく楓を押し倒して楽になれ!』と心の中で禁断の恋を熱烈応援。恋愛モノのラノベを読んでる錯覚に陥ります。

伯朗は物語のラストで楓が潜入捜査官だったと知り、力なくこう言います。『お勤めご苦労さまでした…』。恋に破れ、魂抜けちゃった伯朗のぴえん顔が目に浮かび、『イヤイヤあんたこそお疲れさまだよ…』と同情せずにいられませんでした(T_T)

伯朗がいかにしょーもない奴かは、この小説をしめる最後の一行に集約されています。楓のミニスカ姿を見た伯朗の、心の声です。

危険なビーナスのレビュー

なんともトホホな伯朗お兄様。いいキャラしてますね(笑)

矢神楓についての感想

謎の美女・矢神楓の感想です。ぼくは最初『危険なビーナス』というタイトルに惑わされ、”楓=悪いヤツ”という先入観を持って読み始めました。

物語が進んでも、やっぱしどこか怪しい楓。

明人と結婚したけど籍は入れてないとか、友人知人親族の誰もが楓のこと知らないとか、伯朗を誘惑するボディコンシャスな服着てたりとか、二股OKのシンボルである蛇の指輪してるとか…。

もう僕の中では『楓は遺産を狙うラスボス』確定でした…。

ところが!まさか!潜入捜査官だったとはΣ(゚Д゚)

なんでそーなる!?唐突すぎるやろ!とツッコミながら物語を読み直すとそれらしき伏線がチラホラあった事に気づき(人命救助に慣れてたり、護身術身につけてたり)、なるほどな~と納得。

悪ではなく正義側として『危険なビーナス』というタイトルに回帰してた所も意外性があってヤラレタ感。

ちなみにビーナス(Venus)はローマ神話に登場する”愛と美と性を司る女神”ですが、その美しさを武器に”欲望をかきたて人の心を利用する”という魔性の面もそなえています。

伯朗の下心を利用して協力させ、みごと犯人逮捕に至った楓はまさに『ビーナス』まんま。伯朗だけでなく多くの読者もこの女神様に惑わされたことでしょう。

事件解決後、楓は捜査官としてではなくプライベートで伯朗の前に現れます。飼い始めたばかりのミニブタを連れて。

手間のかかるミニブタをわざわざペットに選んだ理由は、獣医の伯朗と長いお付き合いをしたいと思ったからかも?なんだかんだ、楓も伯朗を気に入ってたのかもしれませんね。

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憲三オジサンの感想

『危険なビーナス』の犯人・憲三オジサン(小日向文世)についての感想です。

この男こそが16年前に伯朗と明人の母である禎子を殺害した真犯人であり、画家だった伯朗の父が最後に描いていた『寛恕の網』という絵を生涯をかけて探していた人物。

さらに明人にこの絵を相続させないため、誘拐計画を企てた犯人でもあります。

16年前、数学者だった憲三オジサンは、素数の謎を解明する可能性を秘めた『寛恕の網』に心を奪われ、絶対手に入れたるマンと化しました。これは所有欲を満たすためではなく、世に混乱を招き兼ねないこの絵を隠す(自分で管理する)ためです。

矢神家に嫁いだ禎子が実家に不在なのをイイことに、不法侵入を繰り返し、絵を探しまくっていたオジサン。そこで運悪く禎子と遭遇し、もみあいの末 転倒して意識不明となった禎子にトドメをさしてしまったのです。

一枚の絵に人生を狂わされた数学者と、その狂気の犠牲となった禎子。数学アレルギーの僕は『素数ごときでそこまで人狂う?』とイマイチ理解に苦しみましたが、数学者として大成できなかった憲三には、人しれぬ焦りや葛藤があったのでしょう。

ただね、この憲三オジサンも伯朗につぐなかなかの残念キャラで、ツッコミどころ満載なんです。

まず、明人誘拐の実行犯をネット掲示板で募集してたこと。サイバー警察ナメすぎです。

次に、雇った実行犯が覆面捜査中の警察官だったことに気づかないポンコツさ。もはやコントです。オジサンは身バレを警戒し実行犯とメールでしかやり取りしませんでしたが、これがアダとなったのです。

さらなる大失敗は、楓の存在をスルーしてしまったこと。

実は憲三には楓の正体にたどり着く大チャンスがありました。楓が初めて憲三に会った時、『明人くんは仕事でシアトルに残ってます』と行方不明であることを隠していましたが、憲三はこれがウソだと知っていたのです。

なぜなら明人はこの時、オジサンが雇った実行犯に監禁されており(実際は警察の保護下にいたんだけど)、シアトルにいるハズが無いのですから。

もし楓のウソをもう少し踏み込んで疑っていれば『楓は明人の嫁じゃない→なら何者?→もしや警察関係者?』と閃き、計画を放棄するという選択肢に至れたかもしれません。

※ちなみにドラマ版の憲三は、伯朗から『明人が行方不明』であることを知らされています。。まだドラマの犯人が憲三だと確定していませんが、原作のツッコミどころを上手く修正した感じです。

最後は罪を認め、自ら命を絶とうとした憲三ですが、国家権力の本性をあらわした楓に止められあえなく逮捕。

欲しかった絵も灰になってしまい、残ったのは犯罪者の汚名のみというバッドエンドを迎えてしまいました。

『危険なビーナス』といい『容疑者Xの献身』といい、東野圭吾の作品に登場する数学者は残念な結末を迎えるパターンが多い気が^^;

ちなみにドラマ版では小日向文世さんが憲三さんの役を演じるとか。ラストの怪演に期待できそう!

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危険なビーナス 矢神明人の感想

最後に『危険なビーナス』の核心人物・矢神明人についての感想です。

名家・矢神家の跡継ぎとして生まれ、幼少期から天才と称されるほど頭脳明晰だった明人。現在は世界を飛び回るIT企業の社長さんです。

この選ばれし者が謎の失踪をしたことで物語はスタートしましたが、終わってみれば、この失踪を含めたすべてが”明人のミッション”だったというオチでした。

失踪したのではなく、警察と行動をともにしていた明人。その目的は、明人の誘拐計画を企てた犯人と、16年前に母を殺害した犯人を捕まえる事(どちらも憲三だったのは予想外のこと)。

もちろん潜入捜査官の楓も明人の協力者の一人です。

楓をラスボスと信じていた僕は『明人は遺産を狙う楓にとっくに始末されとるわい』とかダメダメな考察をしていたので、最後に明人が登場した時めっちゃ驚きました^^;いいい生きてるやん!って。

しかも登場シーンもやたらカッコよく、火事で逃げ遅れた伯朗を命がけでレスキューするというヒーロー感あふるる降臨ぶり。

イケメンでインテリで高身長で金持ちで勇気があって兄思いな明人。弟の嫁に鼻の下伸ばしてた伯朗の小物っぷりが際立ちます^^;

なかなかの高低差がある兄弟でしたが、事件が片付いたあとの二人の会話シーンは兄弟愛をにじませるものでちょっとホッコリ(*^^*)

何年も連絡を取りあっていないのに、フツーに『兄さん』『お前』とかフランクに呼び合ってて、しっかり兄弟してる姿にジーンときました。たとえ異父兄弟でも、たとえ疎遠でも、根っこの部分でしっかり繋がっているんだな、と。

兄弟愛もこの小説のテーマの一つだったのですね…。

ちなみに明人は事件が片付いた後、親族の百合華(ドラマでは堀田真由が演じる)とちょっとイイ感じになっていました。

天才の明人と凡人の伯朗、共通点の無い兄弟だな~と思ってましたが、”禁断の愛に走りがち”って部分は、ちょっと似てるのかもしれませんね(笑)

危険なビーナスのレビュー まとめ

『危険なビーナス』レビューまとめです。

『容疑者Xの献身』『さまよう刃』『白夜行』などのヘビーなヒューマンドラマ作品と比べ、東野圭吾先生にしては比較的ライトなノリで笑いも多かった『危険なビーナス』。読後も引っかかるところ無くスッキリだし、伏線探しで2周目も楽しめる内容でした。

『天才が人を幸せにするとは限らない』

『支え合ってこそ人生は楽しい』

などの幸せの処方箋的メッセージもじんわり胸に響きます。”天才ではない”苦労人の伯朗が、周囲の美人オネーチャン達に振り回されつつも、どことなく達観した感じで楽しげに生きてる姿を見るとなおさらですね(笑)

主人公が獣医ということでペット飼育のTipsなんかもちょいちょい登場し、難解な数学用語の解説も併せていろいろ勉強になる一冊でした。理系、文系、動物好き、いろんな方にお勧めの作品です。

ドラマ化も決定し、2020年10月11日から放送がスタート。TBS系ドラマは原作とは違った結末になるパターンが多いので(最近ではテセウスの船、家政夫のナギサさんなど)ドラマと原作の違いを比べながら見るもの楽しいかもしれませんね。

以上、『危険なビーナス』原作小説の感想をお届けしました。最後までお読みいただきありがとうございます♪

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